【書評】『マネーという名の犬 12歳からのお金入門』は大人も必読のお金の教科書だと思う。

マネーという名の犬,12歳からのお金入門

日本人は『お金』に関してリテラシーが低く、お金の話を避けたがるために、いつまで経ってもお金について詳しくなれず、ずっとお金に困り続けている。なぜなら、お金は生きていくためにとても大事なものであるはずなのに、大人になるまでに学校で教えてくれないからだ。

そんな主張は今や至る所で聞くことができますが、それでも社会は『お金のリテラシー』の向上機会になかなか恵まれないのが現状であることは間違いないでしょう。

ボード・シェーファー著、村上世彰監修の『マネーという名の犬 12歳からのお金入門(旧訳:イヌが教えるお金持ちになるための知恵)』は、子ども向けのマネー入門書として、2000年に発表されたのち、23カ国語に翻訳されて400万人以上に愛され続ける世界的ベストセラーになり、世界で一番おもしろくてわかりやすい、物語仕立ての「お金」の入門書として親しまれ続けています。

本書は小説形式で展開され、お金に困っている両親の元に育つ少女キーラの元に、突如として人間の言葉を話す『マネー』という犬が現れ、マネーがキーラにお金の原理原則を丁寧に教えていくという物語になっています。

最終的にマネーや、マネーの元飼い主であった資産家のゴールドシュルテン氏らの教えにより、キーラは着実にゼロから着実に資産を増やし、彼女の夢を叶えながらも両親の抱えていたお金の問題まで解決していくようになります。

この物語の面白いところは、単に『お金とは何か』、『お金持ちになるにはどうすればいいか』、『お金の悩みを解消するためには何をすべきか』を説くものではなく、キーラという一人の少女の成長ストーリーが描かれているところ。忍び込んだ洋館で泥棒と対峙するようなエキサイティングなシーンもあるので、小さな子どもでも自分自身をキーラ(あるいは既に『お金儲け』の経験を持つ従兄弟のマルセル)に感情移入しながら、楽しく本書を読み進めることができるでしょう。

本書では冒頭部で村上世彰氏が『この本の中で特に大切だと感じた5つの教え』を紹介していらしたので、僕もそれにならって『特に印象に残った5つの学び』を紹介したいと思います。

1.仕事とは不愉快で辛いものではない。

小学生のキーラは従兄弟のマルセルのアドバイスもあり、まずは自分でお金を稼ぐために自身のビジネスを立ち上げることにします。

そのビジネスというのが『動物と仲良くなるのが得意』という長所を生かしたペットの散歩代行サービスだったのですが、キーラにとって初めての顧客であるハーネカンプ氏から初めての報酬として2000円を受け取ると、キーラは『たったこれだけのこと、しかも私にとって楽しいことをしただけなのに、こんなにたくさん貰うなんて…』と憂鬱そうな素ぶりを見せます。

そのあとハーネカンプ氏はキーラにこう諭すのです。

たいていの人は、仕事とは不愉快で辛いものであるはずだと思っている。でも、人は何かほんとうに好きなことをするときにだけ、ほんとうに成功できるものなんだよ。

キーラは両親から『まずは仕事。そのあと遊び』という価値観を植えつけられていましたが、我々多くの日本人もそのように捉えているのではないでしょうか。

僕の持論ですが、お金を稼ぐということは、それだけ大きな価値(エネルギー)を提供した証とも言えます。もっと丁寧に言うと、誰かの不快を取り除いたとき、あるいは誰かに快を提供したとき(誰かをHAPPYにしたとき)に対価としてお金をいただけるわけです。

逆にいつも他人に文句ばかり言う人やクレーマーは『他者を攻撃して不快な気持ちにさせること』で自分が快感を得ている傾向にあるので、そういう人は他者の快感指数を下げることが癖になってしまっているので、ビジネスで成功できないし自分自身を豊かにすることもできないと。

ビジネスで成功したり、多くのお金を受け取ることができるのは、誰かの快感指数を高めてあげられる人です。

だから、仕事が不愉快でつまらないものだと思っている人は『誰かの快感指数を高める』ためのアプローチに対して消極的でネガティブなイメージを持っていることになるので、そういう人は成功者体質からは程遠いってことですね。成功するのは『誰かの快感指数を高める』ことにポジティブな感情で取り組める人、だから『ほんとうに好きなことをするときにだけ成功できる』って言えちゃうわけです。

嫌いなことを渋々やっていても、そういう意識は他者に伝わってしまいますし、それでは相手の快感指数を高めるどころか逆に下げてしまいかねないですからね。

2.『お金があるほど不幸になる』というのは間違い

マネーの本当の飼い主だったゴールドシュルテン氏との対面を果たしたキーラは、お金にまつわる様々な教訓を彼から教わり、彼女の両親が抱えている借金問題を解決するためのアドバイスも貰うことができました。

しかし、キーラの両親はそのアドバイスに対して聞く耳を持たず『子どもにお金の何がわかる』と言い放ちます。それに対して17歳で巨万の富を築いた少年の話を持ち出しつつ『私もいつかお金持ちになるわ』と言ったキーラに対し母親は次のように言うのです。

キーラ、そんなこと言うものじゃないわ。わたしたちは大金とは縁がないのよ。それにお金があっても不幸になるだけよ。大事なのは、少ないお金で満足することなの。よく覚えておくのね。

母の言葉に対してキーラはこんな疑問を持ちます。

大金持ちのゴールドシュルテン氏はとても幸せそうに見えるけど、お金がない両親はあまり幸せそうには見えない。むしろお金がない方が不幸になるんじゃないか。

実際に僕も子どもの頃は『お金持ちになりすぎると不幸になるのではないか』と思っていました。

理由は色々なんだと思います。マスメディアの影響かもしれないし、お金持ちに対する嫉妬心を抱かないようにするための防衛本能が思考に影響を及ぼしたのかもしれないし。

ただ一つ言えることは、お金をたくさん持っているかどうかが人の幸せに影響を及ぼすのではないということ。

結局のところ『幸せかどうか』というのは客観的事実ではなくて、主観的な捉え方、心の問題なのです。同じ事象が起こったとしても、それを幸せだと捉える人もいれば不幸だと捉える人もいるわけだし、個々人の捉え方次第だというほかないのではないでしょうか。

ただ、お金を持っていることで、『お金がないこと』に起因する様々な問題から解放されることは確かだし、経済的な余裕があることで精神的にも豊かになりやすいし、『お金』は『幸せになるための様々な手段』と交換するすることができるので、お金がないよりもお金がある方が人生の選択肢も多くなりますよね。

それにもっと現実的な話をすると、数年前に祖父が病気で倒れて経済的な出費も相当なものになったんですけど、祖父は国民年金に加えて過去に勤めてきた会社からの企業年金も貰っていたことに加え、決して無駄遣いをせずにコツコツと貯金や株式投資で資産を増やしていたので、その出費が大きな問題になることはありませんでした。

それどころか、祖父にできるだけ気持ちの良い環境で入院をしてもらうためにいくつかの病院を吟味することができたんですけど、そもそもお金がなかったらそんな選択肢もなかったでしょう。

メディアや世間は、誰か有名なお金持ちの転落人生をセンセーショナルな事件として大げさに取り上げるため、『お金があるほど不幸になる』という固定概念が広まっているのかもしれませんが、それはそもそもたくさんいるお金持ちの中の『一部』の例でしかないですし、お金がない人はお金がない中で普通に苦労しているわけです。それが当たり前すぎて誰も見向きもしないだけであって。

だから、『お金持ちほど不幸になる』みたいな考え方は全然ロジカルではないし、そういう思考を採用するのは馬鹿らしいってことです。

3.お金は汚いものではない

キーラはビジネス仲間になった従兄弟のマルセルらと共に、新しく彼女の顧客になったトランプ夫人の家に招かれます。

彼女たちはそこで鍵のかかったチェストの中を覗き見ると、そこには莫大な数の札束や金の延べ棒、有価証券や宝石の類が入っていて、それを見たキーラとマルセルはこんな話をします。

わたしは母がいつも「お金をさわったら手を洗いなさい」と言いつけることも、思い出さずにはいられませんでした。

「お金持ちの人たちはお金を汚いものだとは思っていないんだと思うわ」

「トランプ夫人は時々このチェストを眺めていい気分に浸るんだと思うよ。おれだったらきっとそうだな」

『お金持ちになるための教科書』のような類の本は数多く出版されていますが、その多くには『お金を汚いと思ってはいけない』だとか『お金を好きになろう』という内容が書かれていますし、本書のあとがきにもこう書かれています。

お金が十分にあれば、品位を保って毎日を生きることができ、自分のためだけでなくまわりの人のためにも、もっと役に立つ人間になることができます。「経済的に苦しいのはしかたがない」、あるいはその方が気高いのだという考えは、人類の最悪の思い違いです。

実際にお金をたくさん持つことができれば、そのお金を精神的な豊かさを向上させるために使うこともできますし、自分自身を救うことができます。そして、自分自身が『品位のある生活』を送れるようになれば、周囲の大切な人たちに豊かになってもらうためにお金を使うこともできます。

『お金=汚いもの』という発想を持ってしまうと、まず潜在意識で『お金が嫌い』だと捉えてしまうし、人は嫌いなものを得るための努力なんてできません。嫌いなものについて詳しくなろうともしないですよね。

何かをたくさん得たいなら、まずはそれについて詳しくなって、それを好きになること。それが重要な第一歩です。

マネーという名の犬,書評

4.幸運とは常に準備と努力の結果にすぎない

ビジネスが軌道に乗り口座に多くのお金が振り込まれたのちに、キーラは両親にローン返済の方法についてアドバイスをしますが、『子どもが口を出すな』というスタンスの父親から『お前はどうせ運が良かっただけだ。お前に何がわかる?』と毒づかれてしまいます。

すると、キーラはこう切り返し、父親から次のような言葉を引き出すことに成功するのです。

「歴史の先生がいつも言ってるわ。幸運というものは、よく観察してみると、つねに準備と努力の結果にすぎないって」

「おれの取引先の社長が幸運について話してくれたことがあったなあ。何だっけな…ああ、そうだ。こう言ったんだ。『ばかなやつには1度しか幸運は来ない。でもかしこい人間には何度でも幸運が来る』って。あのときは、幸運とかしこさに何の関係があるのか理解できなかった。でもいまはわかる。幸運が準備と努力の結果なら、準備と努力をすればするほど、幸運に恵まれるってことだ」

大きな会社の経営者やスポーツ選手のインタビューを見ると、成功した要因として『幸運』の存在をあげていることが多いです。

夢に向かって努力や準備をしていれば、それだけ『夢』が頭の中を占める割合が多くなるので、『夢に近くチャンス』に敏感になれるのです。引き寄せの法則とかカラーバス効果でも説明されたりしますが、人はなりたい状態や欲しいものがある時、それに関する情報が脳に飛び込んできやすくなります。

だから、そもそも『夢や理想に向かって努力をしている状態』であればあるほど、通常の状態では何でもない出来事にすぎないことでさえも、それを幸運に変えることができるのです。

僕は自分で起業をしようと思った2013年の夏に、人生を変えるメンターとの出会いがありました。

ある起業家の方のメルマガに登録をしたら、そのわずか数日後にコンサル生募集のメールが届き、当時の僕にとっては決して安くはない金額を払って彼からビジネスを学ぶことにしました。

僕以外にもその起業家のメルマガを読んでいた人はたくさんいたと思うし、僕以外にも彼のコンサルを受けた人はたくさんいたと思うけど、その全員にとって『彼からコンサル募集のメールを受け取った』ことが幸運になったかというと、それは絶対にあり得ないことでしょう。

そのチャンスにしっかりと飛びつき、そのチャンスを無駄にしないためにも、しっかりとコンサルを活用しながら愚直に努力をし、淡々とやるべきことをやってきた結果、あの時のことを振り返って『あぁ自分って幸運だったんだな』と感じることができるわけです。

きっと、そのチャンスをチャンスだと認識しなかった人、あるいはチャンスに飛びついてみたは良いもののその後にロクな努力をしなかった人の中には、今でも『俺は幸運に恵まれない。良いよなぁ、成功してる人は運が良くて…』と思っている人もいるかもしれません。

5.幸せになりたければ、自分自身が変わらなくてはならない。

キーラはトランプ夫人の自宅に泥棒が入り込んだけれど何も盗まずに逃げていったことを伝えると、トランプ夫人は『もし泥棒たちがお金を盗んでいたら、泥棒たちは逆に不幸になっただろう』と語りました。

よく理解ができないキーラに対し、トランプ夫人は更にこう語ります。

お金は人を幸せにも不幸にもしない。お金は中立で、良くも悪くもないの。お金は誰かのものになったときにはじめて、その人にとって良いか悪いかの意味をもつのよ。お金はいい目的のために使われるか、よくない目的のために使われるかのどちらかなの。幸せな人は、お金を手に入れればもっと幸せになるし、心配ばかりしている人は、お金が増えれば心配も増えることになるのよ。

その人の人間的な器以上のお金を手にしてしまうと破滅的な未来が待っていると言う人は多いです。例えば、宝くじの高額当選者のほとんどが人生を狂わしてしまうのは良い例ではないでしょうか。

お金は単なる『ツール』でしかないと僕は思っていますし、ツールというのは使い方によって様々な結末をもたらします。

例えば、包丁を使えば大切な人を喜ばせられるような美味しい料理を作ることができますが、世界のどこかには誰かの生命を奪うためにそれを使ってしまう人もいます。

お金もそれと同じで、単なるツールに過ぎない以上は『お金を手にしただけで幸せな結末が待っている』という考え方はすべきではありません。

『お金は稼ぐよりもちゃんと使う方が難しい』と言う人もいますが、お金の使い方にはその人の哲学や理念が表れます。幸せになりたければ『幸せにふさわしい人』を目指して、精神的にも肉体的にも自分磨きをしていくしかないのだと思います。

そして、お金持ちになった後に破滅的な未来を回避するためには、自分が稼いでいくお金にふさわしい人になるっていう意識が大事ですね。

年収1000万円プレイヤーになりたいのなら、年収1000万円を受け取るにふさわしい自分になる。億を稼ぎたいのであれば億を稼ぐにふさわしい自分になる。

そうやって、稼ぎたい金額に合わせて自分の器を大きくしていくという意識があってこそ、幸福なお金持ちになることができるのではないでしょうか。

【まとめ】お金の勉強は財テクよりも本質から始めよう。

前述の通り、日本人はお金の勉強をロクにしてこなかったまま大人になる人が多い。その結果、お金のことになると思考停止になったり拒絶反応を示したりしてしまうのでしょう。

また大人になってから『お金について勉強しよう!』と意気込む人がいても、書店に並んでいるマネー系のビジネス書の多くは『お金を稼ぐにはどうすればいいのか』のような財テク系のノウハウを解説する本だったり、主婦向けの節約技術に特化した本が多いですよね。

でも、僕らがまずはやるべきことは、お金に関する思考のベースが何もない状態から脱却すること、すなわち『人生とお金の関係性』における哲学を成熟させることだと思うんです。

『マネーという名の犬』は子ども向けに書かれた小説調の本で、実際にもサブタイトルに『12歳からのお金入門』と書かれてあります。

ただ、お金に関するベースが何もない人たちにとっては、このような『お金とは何なのか』、『賢いお金の使い方とはどのようなものなのか』、『お金を持つようになるとどうなれるのか』を丁寧に語っている本書から入って、お金に対する哲学を固めていくのが先決ではないでしょうか。

それに、この本は『目標を持つことの大切さ』だったり『物事を継続するときのコツ』のような、人生を豊かにするための総合的な考え方がたくさん盛り込まれているし、厳しい言い方をすると『無知で情弱』と呼ばれても仕方がないような一人の少女が、周りの大人を巻き込みながら成長していくストーリーは読んでいて実に爽快です。

人生を豊かにするために大切なことがたくさん盛り込まれている本書は、定期的に何度でも読み返したくなる、大人にも超オススメの本でした!