デジタルマーケティングにおける重要な考え方のひとつに「マーケティング・ファネル」という概念があります。
良い商品を作っても、その価値が適切に顧客に届かなければ、商品の良さを感じ取ってもらうことはできません。そのためには、顧客の心理状態に応じた的確な施策を打ち、理想的な流れで消費行動に移行してもらう必要があります。
成約率とLTV(生涯顧客価値)が高いビジネスを手がけていくためには、理想的なマーケティングファネルを構築する必要があります。
もちろん、ファネルはあくまで形式的な理論にすぎませんが、「良いビジネスのゴール」として「理想的なファネルを作り上げること」を挙げても何らおかしなことではありません。ƒ
今回はマーケティングの初心者さんにもわかりやすいよう、図解や具体的事例を交えながら、マーケティングファネルについて解説していきたいと思います。
マーケティングファネルとは?
ファネルとは英語で漏斗(じょうご、ろうと)を意味する言葉です。
漏斗は理科の実験でよく使われる逆三角形(すり鉢型)の器具で、一番上の大きな口に液体を入れると、途中で不純物が次々に取り除かれ、最終的に純度の高い真水が精製されます。
それと同様に、見込み客が徐々に商品に興味を持っていく過程で、人数は減るけど純度(商品への興味関心)が高くなっていき、最終的に理想の顧客になる流れを示したのがマーケティングファネルです。
より詳しく見ていきましょう。
購買までの流れをファネルで可視化
消費者が商品を購入するまでの流れは「認知 → 興味・関心 → 比較・検討 → 購入」と一般的に示されます。
まず商品や企業のブランドを知り、その商品に関心を持ち、他の商品と比較したり購入を検討するフェーズを経て、最終的に購入に至る…と聞くと、とてもシンプルでわかりやすいと思います。
こちらの図でも示していますが、それぞれのフェーズを経ることで、人数が減っていきます。そのため逆三角形型の形になることから「ファネル(漏斗)」という呼び方が使われるようになりました。
例えば「売上が伸びない」という悩みを抱えている場合、この4つのフェーズのうち、どの段階に問題があるのかを把握することで、より具体的で的確な改善案を実行に移すことができます。
フロントエンド・バックエンドのモデルをファネルで可視化
オンラインマーケティングの重要な考え方に「フロントエンド・バックエンド」というものがあります。
参考:フロントエンドとバックエンドとは|利益を最大化させる商品マーケティング戦略の基礎
簡潔にいうと、フロントエンドとは顧客に対して最初に販売することになる「集客用の商品」で、バックエンドとはフロントエンド購入者リストに対して販売する「利益回収用の本命商品」ということになりますが、この「フロントエンド → バックエンド」という流れも可視化すると見事に逆三角形のファネル型になります。
フロントエンド商品は、より低単価で「数を取るための商品」に対し、バックエンド商品は高いブランド価値を体感してもらう高価格帯の本命商品になります。
また基本的にどんなビジネスでも「継続購入率」が100%になることはありえないため、フロントエンド → ミドルエンド → バックエンド…というステップを経るごとに顧客数は減少していきますが、最後まで残った顧客は、あなたのブランドの熱狂的な固定ファン化していきます。
WEBを活用したダイレクト・レスポンス・マーケティングの場合
次にWEBを活用したダイレクト・レスポンス・マーケティングを可視化したファネル図をご紹介します。
基本的にDRM(ダイレクト・レスポンス・マーケティング)は「集客 → 教育 → 販売」という流れになりますが、それぞれを細分化すると上記のようなフェーズ分割となります。
「商品購入」の部分については、上記にあるように「フロントエンド → バックエンド」の流れが新たにスタートするので、マーケティングファネルの「商品購入」のフェーズの中に「フロント → ミドル → バック…」という別のファネルが存在する…というイメージですね。
認知のフェーズでは、ブログ記事やYouTube動画を更新して検索エンジン経由で集客したり、SNSの投稿や広告等を使用し「面白い発信をしてる人がいる」とか「役に立つ情報を提供してくれる人がいる」といったように、まずは自分の存在を知ってもらい、かつポジティブな感情と紐づけてもらえるようにします。
認知の次は、メルマガやLINE@に登録をしてもらい、こちらから能動的にアプローチできるようにしていきましょう。
次にメルマガでの価値提供やプレゼント、相互コミュニケーションを通じて信頼関係を構築していき、最終的に商品を購入してもらえるようにしていきます。
大事なことは、それぞれのフェーズでの目的に対して「どのようにしたら、その精度が上がるか」を考えて戦略を組むことです。
「リスト取得数を増やすには」「より深く信頼関係を構築するには」「クロージングの成約率を高めるには」といったように、それぞれのフェーズにおいて必要な施策は何かを考えることで、やるべきことが明確になっていきます。
ダブルファネルで更にマーケティングの仕組みを強化する
マーケティングの流れは「顧客に商品を購入してもらって終わり」かというと決してそうではありません。
良いビジネスの条件は「顧客が継続して顧客であり続けてくれること」と「顧客が新しい顧客を呼んでくれること」です。
顧客がリピーター化してくれたり、より高額な商品へと移行してくれたり、新しい顧客を呼んでくれる様子を可視化して、逆三角形型のマーケティングファネルと合わせて図解するとこのようになります。
LTV(Lifetime Value)の向上
購入した商品に満足をしてくれた顧客は、継続して購入し続けるリピーターになってくれたり、更に高額な商品を購入してくれたり、他の商品もセットで買ってくれるようになります。
より高い商品を成約させることをアップセル、他の商品とのセット販売を成約させることをクロスセルと言います。(美容院の場合、カットだけでなくカラーやパーマも合わせたコースを販売するのがアップセルで、シャンプーやワックスを販売するのがクロスセル)
1人の顧客が商品を購入してくれる回数(継続回数)を増やしたり、1人の顧客が1度の購買時に払ってくれる金額(顧客単価)を伸ばすことで、LTV(顧客が生涯を通じて払ってくれる金額の合計)を高めることができます。
参考:LTV(ライフタイムバリュー)とは|フリーランスや個人の起業家のマーケティング戦略への活用方法
LTVが高いということは顧客満足度の高い証です。新規顧客集客に頼らないビジネスを展開していくためにも、リピート率や顧客単価の高いビジネスができるようにしたいものです。
顧客が次の顧客を呼ぶ
商品に高い満足度を感じた顧客は、自分が気に入ったその商品を他者に紹介したり、SNSやブログ等のメディアで拡散をしてくれるようになります。
特に日本の商慣習を考慮すると「口コミ」や「紹介」の効力は大きいですし、それらは最強の営業ツールとして機能するため、意図的に口コミや紹介を起こすような仕掛けを販売者が中心になって行っていくことも効果的です。
例えば、SNSでシェアをしたらクーポンを配るとか、顧客を紹介したらその数に応じて割引をしたり(アフィリエイト)、購入者に拡散行動を促すような取り組みを考えていきましょう。
マーケティングのダブルファネルを体験した事例を紹介
理屈はわかったけど、具体的に事例を挙げてくれた方がもっとわかりやすい…!
という声が聞こえてきそうなので、最近ハマっている「ヘッドスパ」について、僕自身が顧客という立場で体験した事例を紹介させていただきたいと思います。
認知:インターネット検索
最初の「認知」のフェーズはインターネット検索でした。
「最近、仕事でパソコン画面と睨めっこすることも多いし、なんかリフレッシュできることにお金を使いたいなぁ〜」と思っていた僕は「そうだ!ヘッドスパに行こう!」と思い立ち、「最寄りの駅名 , ヘッドスパ」と検索して、検索結果画面でトップにあったサロンのHPを開きました。
確かSEOで上位表示されていたのではなく、リスティング広告だったと思います。ネットでもリアルでも「目立つところに広告を出稿する」というのは古典的ですが、効果的な戦略です。
ネット検索経由で認知を獲得するなら、SEOかリスティング広告が良い。
興味関心&比較検討:ターゲットのニーズに合っているか
そのサロンのHPを開いた後は、お店のコンセプトやメニューやセラピスト紹介のページを流し読みするのですが「このお店は女性専用なんじゃないか。男性である僕が行ってもいいものだろうか…」という疑問も若干あったんですよね。
メンズ専門のヘッドスパなんてものがあるご時世ですから、一般のお店は男性が行きづらい雰囲気なのかと。(ヨガとかも同様のことが言えると思います)
そんな僕の悩みを見透かしたように、そのサロンのトップページの目立つところには「メンズメニュー」というわかりやすいバナーが…!
メンズメニューと言っても実際に男性と女性でメニューが違うわけではありません。ただメンズメニュー専用のページを作って、男性に刺さるようなコピーを使いながら、サービスのベネフィットを語っていくだけでも、商品自体が同じとはいえ訴求効果はめちゃくちゃ大きくなるのです。
- ターゲットがどんなことに悩んでいるかを想像しよう。
- 仮に商品が同じでも、コンテンツの魅せ方を変えれば効果絶大。
購入:ホームページ上から予約
疑問が解消できたところで、ホームページ上から空き状況の確認とネット予約をして、予約当日にお店へ。
24時間いつでもスマホでサクッと予約できてしまうのは購入者側からすると本当に助かります。
たまに電話でしか予約ができないところもありますが、あれって本当に面倒なんですよね。後日予約状況を確認したい時も不便ですし。
もちろん、超高級で席数も少ないような焼肉屋さんなど「あえて電話予約にしてハードルを高くしてるケース」なら電話予約オンリーもブランド維持の効果がありますが、特別そういうわけでもないなら「購入までのアクションにおける心理的負担をいかに下げるか」という点はとても重要です。
- 購入に至るまでの導線をシンプルにして、見込み客の心理的負担を下げよう。
- 購入後に「顧客がどうなれるか」はしっかり提示しよう。
継続&バックエンド:サービス終了後に即座に次回予約
約60分のサービスが終了した後に「この場で1ヶ月以内の来店を次回予約すると30%オフになる」というオファーを受けたので、ヘッドスパに大満足していた僕は、何の迷いもなく次回予約を済ませました。
「鉄は熱いうちに打て」という言葉もありますが、販売戦略的には「見込み客の熱量が最高潮の時」にオファーをしてあげた方が成約率も高くなります。「そのまま家に帰ってから予約してもらえれば」と思っても、だんだんとヘッドスパに対する熱量や興味関心は下がっていきますよね。
その場合、またファネルにおける「興味・関心」フェーズからやり直しになるので、非常にコストパフォーマンスが悪くなってしまいます。従って「その場で決断させるメリット」を提示して、次回の購買オファーを出すのは非常に理にかなっています。
また「30%オフ」という継続購入メリットを提示することで「安くなるのなら次はもっと高いコースを頼もうかな」という気持ちにさせることもできます。(実際に僕も、次回予約の際には60分ではなく90分のコースを選びました)
人は「他の人よりも得をしたい(損したくない)」という潜在意識を持っているので、「継続購入者がおトク感を感じやすい訴求」をすることで、継続率やバックエンドの購入率も高くなっていきます。
- オファーはタイミングが重要。
- リピーターがおトク感を感じるような訴求の仕方を。
紹介と拡散:クーポンをつける
美容院などのサロン系ビジネスモデルでは常套手段ですが「知人を紹介したら30%オフのクーポンをもらえる」など、他の見込み客を紹介するメリット(=理由)を提示することで「紹介と拡散」が起こりやすくなります。
オンラインマーケティングの世界では「アフィリエイト」というビジネスモデルも主流となっていますが、アフィリエイターがこぞって他社の商品を宣伝するのも、広告主からASP経由でアフィリエイト報酬を現金として貰えるからです。
また「Instagramで店の名前をハッシュタグ付きで投稿したらクーポンをプレゼント」のようなキャンペーンをやっている飲食店もあります。
もちろん、商品やサービスの質が良いことは大前提で「良いものを売れば、自然と人は紹介してくれる」ものかもしれません。ただ、その背中を押してあげるためのフックとしてクーポンのような「紹介者が得をする仕組み」は用意してあげるに越したことはないですね。
最後に
マーケティングファネルとはビジネスにおける唯一解ではありませんが、良いビジネスをしていく上での指標になることは間違いありません。
ダブルファネルが効果的に機能しているビジネスは、売上も好調になるはずだし、顧客に対して適切に価値提供できている可能性が非常に高いためです。
一方でビジネスが上手くいっていない場合は「ファネルにおけるどのフェーズで問題が起きているか」をまず考えることで問題の原因把握が容易になりますし、その後の解決策も導き出しやすくなります。
従って、集客戦略や販売戦略を考える上では、ぜひ「マーケティングファネル」という考え方を大事にしていただくと同時に、顧客と共に健全に成長していくビジネスをめざしていきましょう。