「ピークエンドの法則」という言葉をご存知でしょうか?
「終わりよければすべて良し」という有名な諺もありますが、人はストーリーを評価する際に「ピーク(絶頂)」と「エンド(最後)」の記憶を最も大事にして、それ以外の部分はあまり重要視しない(評価に影響を及ばさない)という説があります。
このストーリーテリングの法則を活用することで、ビジネスやマーケティングの効果を高めることが可能になります。
また、ピークエンドの法則は恋愛に応用できるノウハウとして取り上げられることも多いので、それについても具体例を提示していきます。
ぜひ参考にしてください。
ピークエンドの法則とは
ピークエンドの法則は、ダニエル・カールマンという行動経済学者が1999年の論文内で提唱した説で、人は一連のストーリーを評価する際「ピーク(一番盛り上がったところ)」と「エンド(ストーリーの最後)」を重視し、その他の部分はあまり影響を及ぼさないというものです。
例えば、学生時代のことを振り返ってみると、一番印象的だった思い出(部活や文化祭や修学旅行)と最後の思い出(卒業式など)を思い出す人が多いと思います。
学生時代を総括するときに、ピークとエンドが最高に楽しければ学生生活全体も楽しい思い出として記憶されるし、それらが苦痛で満ちていたのなら残念な思い出として記憶されます。
映画で考えるピークエンドの法則の具体例
2004年に大ヒットした映画『世界の中心で、愛をさけぶ』を例に出して考えましょう。
この映画のことを思い出すときに、浮かんでくるシーンというのは
- 森山未來演じる高校生時代のサクが、長澤まさみ演じる亜紀を抱きしめながら、空港で「助けてください」と叫ぶシーン
- 大沢たかお演じる大人になったサクが、エアーズロックで亜紀の遺灰を撒くシーン
このどちらかだと思います。(他にあったとしてもごくわずか)
つまらないシーンは盛り上げるシーンを際立たせるためにある
2017年に日本で公開され大ヒットした『ラ・ラ・ランド』もとても評価の高い映画です。
僕もあの映画がとても好きなのですが、映画館でリアルタイムで観てた時は、退屈なシーンも多いなと感じていました。
しかし、女優になる夢を叶えたミアが、同じくジャズバーをオープンするという夢を叶えたセブと再会し、過去の思い出が映像でフラッシュバックするラストシーンを見たときに、思わず涙腺が崩壊し「この映画を観てよかった」と心から思いました。
名作と呼ばれる作品は、実のところ退屈なシーンが意図的に盛り込まれていることが多いですが、退屈なシーンを挿入することで盛り上げたいシーンを際立たせることができるという効果があります。
体験時の感情は「記憶」に変わることでアップデートされる
映画館で観ているときは「このシーン退屈だなぁ」と思っていても、映画館から出て時間が経ってから思い返してみると「退屈」という感情が消えてなくなってしまうことってありますよね。
人はリアルタイムで体験していることが、時間が経って「記憶」へと変わった時に、その時の感情や意味づけもアップデートしてしまうものだからです。
例えば、大学受験の勉強をしている当時は本当に死にそうなくらい辛いものですが、最終的に志望校に合格した後には「自分を限界まで追い込んだ貴重な思い出」として美化されたりするものです。
このように「最後(エンド)」をポジティブに盛り上げることで、それまでのストーリーの意味合いもポジティブなものに変化するのです。
恋愛で考えるピークエンドの法則の使い方
ピークエンドの法則は恋愛ノウハウを語る際に持ち出されることが多いです。
例えば、異性とデートをした時、以下の2つではどちらが良い記憶として定着するでしょうか。
- デート中は特に大きなハプニングもなく、それなりに可もなく不可もない時間を共有できた。
- デート中は大きなハプニングもあり険悪なムードになることもあったが、最後の1時間はめちゃくちゃ楽しい時間を共有できた。
この場合「1」を望む人が多いかもしれませんが、実は「2」の方が良い思い出として記憶に残りやすくなるのです。
もちろん、ハプニング中や喧嘩中は「この人とデートなんてしなければよかった」と思うことになるし、実際のところ全然楽しくないと思います。
ただ「エンド」が最高の思い出になることで、リアルタイムで体験していた時には苦かった瞬間は、最高のラストを迎えるために必要だった流れとして記憶されることになります。
そのため、デートを演出するときは、全てを最大の見せ場かのように盛り上げようとするのではなく、ピークやエンドを盛り上げるための小休止を挟んであげて、メリハリのあるデートプランを立ててあげると心理学的には効果的です。
そして、最後の記憶が良ければ良いほど、それまでの記憶も美化されるものなので、とにかく別れ際や去り際を大切にしてあげましょう。
ビジネスやマーケティングにピークエンドの法則を活用する
すべてのビジネスを「顧客のストーリー」と捉える
ピークエンドの法則をマーケティングに活用するためには、まず自社が行なっているビジネスを「顧客の物語」として捉える必要があります。
例えば、飲食店の場合は、
というストーリーになりますよね。そこで、
- ピーク:料理の満足度を高める、料理の提供方法に趣向を凝らす
- エンド:顧客を見送る際の対応を丁寧にする
このように、ピークとエンドに良い記憶を残してもらうようなサービス提供を行うと、顧客満足度も上がりリピート率の改善にも繋がります。
特にルイヴィトンのようなハイブランドや、高級旅館等は、顧客が入店してから退店するまで(あるいは退店後も)を一連のストーリーとして可視化し、顧客にとって最高のストーリーを体験してもらえるような工夫の質が高いです。
極上のサービスに触れることもマーケティングセンスを高める上での非常に重要な学びとなるでしょう。
WEBでの情報発信でもストーリーを意識する
インターネット上で情報発信をする場合も「ピーク」と「エンド」を意識することで、読者(受信者)に良い印象を与えることができます。
ひとつひとつのメルマガやセールスレターを書く際もそうですし、情報発信ビジネスの流れ全体を「顧客が成長(成功)するストーリー」と再定義することも重要です。
例えば、メルマガを使って情報発信しコンテンツ販売に繋げていく場合でも、単に「メルマガを送って、次はセールスレターに誘導して、商品を販売して…」と考えるのではなく、読者があなたと出会ってから成長を重ねつつ、ステージを上げていくまでの一連のストーリーとして定義することで、読者や顧客との関わり方も変わってきます。
参考:マーケティングファネルとは|事例と図解で初心者にもわかりやすく解説!
なお、僕もマーケティングファネルとは、読者が自分と出会うことで人生が変わっていく過程を図解したものだと思っています。
それを踏まえた上で、ストーリーにおけるどこにピークを持ってきて、そこでどのような価値提供をして、どのようなエンドを提供して、次のストーリーを提案していくか(リピート率を増やしていくか)、という風に考えるようにしています。
オンラインサロン運営もピークとエンドを作る
またオンラインサロンを運営したり、何か講座を開く際ですが、最初だけ盛り上がって徐々に尻すぼみになっていくケースが非常に多いです。(スポーツジムなども最初だけ頑張ってくるけど、次第に足が遠のくお客さんも多いですよね)
それは言うなれば「ピーク」が最初の方に来すぎて「エンド」も良い記憶にならないということです。
従って講座やサロンの期間中は、メリハリをつけて「ピーク」となるような場面を用意してあげたり、期間が終わる「エンド」に近づくにつれて、非日常や特別感を感じられるようなイベントを用意してあげるなどしてあげるといいですね。
最後に
人は何かの評価を判断するとき、全体を満遍なく見ているわけではなく「ピーク」と「エンド」の記憶を特に大事にしています。
従って、僕たちがビジネスに取り組んでいく際にも、いかに「ピーク」と「エンド」に好印象を持ってもらえるようにするかという視点を大事にしていくといいですね。
全てを満遍なくソツなくこなそうとしても、それでは顧客からの評価につながらないことも多いのが実情です。ぜひ、顧客のストーリーにおけるピークとエンドを意識した価値提供を頑張っていきましょう。